一手損角換わり

一手損角換わりの指し方と対策|1手損して形の得を取る定跡

公開日:2026年8月16日|最終更新:2026年8月19日

一手損角換わりとは、後手が自分から早く角を交換し、わざと1手損して形の得を取る攻めの定跡です。8四の歩を8五へ突かずに残すので、8五へ桂を跳ねる余地と、相手の形を見てから作戦を決める利点が生まれます。

一手損角換わりの代表局面

一手損角換わりは、後手が自分から角を交換して1手損する代わりに、8四の歩を8五へ突かない形を選ぶ戦法です。

分類:居飛車/定跡手数:16手(受ける先手側の手だけを数えます)

図は一手損角換わりを受ける先手側の形です。角を取り返して銀を7七へ上げ、玉を7九へ引き、銀を5六へ上げています。一手損角換わりは後手の戦法なので、この記事では受ける先手側の組み方を図にしています。盤には先手の駒だけを出しています。

一手損角換わりの強さを9項目で見る

一手損角換わりは9項目のうち持久力が70でいちばん高く、構想の自由度の65、意外性の60が続きます。いちばん低いのは仕掛けの速さの30です。9項目の点数は、破壊力55・仕掛けの速さ30・意外性60・覚えやすさ35・汎用性40・持久力70・対急戦耐性55・構想の自由度65・発展性55です。

一手損角換わりを受ける先手側の定跡手順(全16手)

一手損角換わりを受ける先手側の駒組みは16手です。定跡手数は先手の手だけ、図の「N手目」は通算の数です。黄色のマスが、その手で動いた先です。

図1 7手目

7六の歩を突き、飛車先の歩を2五まで伸ばします。相手が自分から角を切って(自分から角の交換をしかけて)きたので、銀を7九から8八へ上げて取り返します(▲8八銀)。この図は先手と後手を合わせた6手目に角を交換した形です。

図2 15手目

銀を7七へ上げ、金を7八へ上げ、銀を3八へ上げてから、端の歩を1六へ突きます(▲1六歩)。端を突き越す(相手より1つ多く端の歩を進めること)形は、この戦法を受ける側の得の1つです。

図3 25手目

4六の歩を突き、銀を4七へ上げ、金を5八へ上げ、玉を5九から6八へ上がってから7九へ引きます(▲7九玉)。7八の金が玉の真上に来て、2八の飛車とも段が離れます。

図4 27手目

銀を4七から5六へ上げます(▲5六銀)。受ける側は腰掛け銀の形を選びました。

図5 31手目

3六の歩を突き、6六の歩を突きます(▲6六歩)。角を打ち込まれる隙をなくしてから、次の攻めを考えます。ここまでで16手です。

この記事の図と手順は、一手損角換わりを受ける先手側の形です。一手損角換わりそのものは後手の戦法なので、後手の指し方は本文で説明します。

一手損角換わりの狙い筋

一手損角換わり側(後手)の狙いは、1手損する代わりに8四の歩を8五へ突かない形を選び、相手より後に作戦を決めることです。

8四の歩を8五へ突かずに残す

歩を8四に置いたままにすると、8五へ桂を跳ねる余地が残ります。金を4三へ上げる形や、玉を2二へ入れる形も選べます。

後から作戦を決める

わざと1手おくれて動くので、相手が棒銀・早繰り銀・腰掛け銀のどれを選ぶかを見てから、こちらの形を決められます。

角の交換の時期を選ぶ

角を交換する時期は、4手目・6手目・8手目(どれも先手と後手を合わせた総手数)から選べます。4手目の交換がいちばん多く、駒組みの自由度が高い形です。この記事の図は6手目に交換した形です。

一手損角換わりが対策されたときの指し方

一手損角換わり側(後手)が対策されたときは、早繰り銀で速攻された場合・棒銀で来られた場合・腰掛け銀で来られた場合・端を突き越された場合の4つで指し方を変えます。

早繰り銀で速攻されたとき

相手が銀を4六へ早く進めてきたら、1手損しているぶんだけ忙しくなります。銀を5四へ上げて歩で追い払うか、8五へ桂を跳ねる形を早めに用意します。

棒銀で来られたとき

相手が銀をまっすぐ進めてきたら、銀を3三へ上げて2筋を守り、金も足して守り駒の数を増やします。

腰掛け銀で来られたとき

8四に歩を残しているので、8五へ桂を跳ねる反撃があります。この反撃があるので、相手の得は小さくなります。

端を突き越されたとき

相手に端の歩を1五まで突き越されると、端から攻められます。角の交換を6手目や8手目に遅らせて、端を突く手数を与えない形も選べます。

一手損角換わりと相性の良い囲い

一手損角換わりに決まった囲いはありません。受ける先手側は7九玉のような低い形のまま戦い、長い将棋になりそうなときだけ囲います。

金矢倉:長い将棋になりそうなときの囲いです。8八の玉を7八の金・7七の銀・6七の金で囲い、上からの攻めに強くなります。

カニ囲い:6九の玉を7八の金・6八の銀・5八の金で守る軽い囲いです。玉の形を決めずに戦いたいときに使います。

一手損角換わりを受ける側の対策

一手損角換わりを受ける先手側は、早繰り銀・棒銀・腰掛け銀・端を突き越しての右玉の4つから選びます。いまは早繰り銀が有力とされています。

早繰り銀で速攻する

銀を3七から4六へ早く進める早繰り銀で、3五の歩から仕掛けます。相手が1手損しているので、速い攻めが利きます。

棒銀でまっすぐ攻める

銀を2筋へまっすぐ進める棒銀で攻めます。有力ですが、これで良くなると決まった手順にはなっていません。

腰掛け銀で組む

銀を5六へ上げる腰掛け銀でじっくり組みます。ただし相手に8五へ桂を跳ねる反撃があるので、先手の得は小さくなります。

端を突き越して右玉に組む

端の歩を1五まで突き越し、玉を右側へ運ぶ右玉に組みます。端を1つ多く進められるのは、この戦法を受ける側の得です。

実戦で学ぶ一手損角換わりの戦い方

実戦で学ぶ①: 玉を引っ越すときは、歩がぶつかる空きマスがどこに残っているかを先に数える

図は1つ目の対局(動画「なぜ一手損する戦法がそんなに強いのか?」)の44手目の配置です。一手損角換わり側が手前になるよう180度回してあり、図の1筋が実戦の9筋にあたります。

黄色の8八の玉は、7八の金・5八の金・7七の銀・6七の銀で囲った銀矢倉(矢倉の上側の金を銀に替えた囲い)に入っています。44手目はここから黄色の9八へ香を上げた手で、次に赤い印の9九へ玉を入れて穴熊(玉を盤のすみに入れて金銀でふたをする囲い)にする狙いです。ただし玉が動いているあいだは、囲いが1枚欠けた形になります。ここで先に数えるのは、歩がぶつかるマスです。6筋を見ると、相手の黄色の6四の歩とこちらの黄色の6六の歩のあいだに、赤い印の6五が1マスだけ空いています。こちらの6六の歩は6五に利いています(機械で確かめました)。実戦はこの6五へ相手が歩を進めてきて、玉を9九へ入れる前に戦いが始まりました。固い囲いからさらに固い囲いへ引っ越すかどうかは、歩がぶつかる空きマスを数えてから決めます。

実戦で学ぶ②: 角を打ち込まれたら、飛車の逃げ場所と、成らせた代わりに残る得をセットで数える

図は1つ目の対局(動画「なぜ一手損する戦法がそんなに強いのか?」)の47手目の配置です。一手損角換わり側が手前になるよう180度回してあり、図の1筋が実戦の9筋にあたります。

47手目、相手が持ち駒の角を3九へ打ちました。黄色の3九の角は、すぐ斜めとなりの黄色の4八にいるこちらの飛車に当たっています。持ち駒を数えると、こちらは角1枚と歩1枚、相手は0枚です。盤と持ち駒を合わせた歩の枚数は、こちらが10枚・相手が8枚(機械で数えました)。この歩の差がこちらの主張になります。実戦は飛車を赤い印の3八へ寄り、角が成って馬(成った角)になるのを承知で歩得を残しました。歩を1枚多く持つ得と、馬を作られる損は、どちらが勝るかが囲いの固さで決まります。この将棋は黄色の8八の玉が銀矢倉に入っていて固いので、歩得をじっくり生かす側を選んでいます。

実戦で学ぶ③: 駒がぶつかったら、取り合いが終わったあとの持ち駒の枚数を先に数える

図は1つ目の対局(動画「なぜ一手損する戦法がそんなに強いのか?」)の55手目の配置です。一手損角換わり側が手前になるよう180度回してあり、図の1筋が実戦の9筋にあたります。

55手目、相手の桂が跳ねてきたところを銀で取り、打たれた歩も銀で取り、その銀を相手の銀に取り返された、という一連の取り合いが終わった形です。持ち駒を数えると、こちらは角1・桂1・歩2の4枚、相手は銀1枚だけ。銀1枚を渡した代わりに、桂1枚と歩1枚が増えています。盤の上では相手の黄色の8四の馬が中央をにらんでいますが、黄色の8八の玉のまわりは9八の香・7八の金・5八の金・7七の銀が残っていて、この時点で玉に当たっている相手の駒は0枚です(機械で数えました)。駒がぶつかったときは、取るか逃げるかを感覚で決めず、取り合いが終わったあとの持ち駒の枚数を先に数えます。この対局は、このあと一手損角換わり側の勝ちになりました(動画の画面に出た「勝利」の表示による)。

実戦で学ぶ④: 攻めの銀と受けの銀を交換したあとは、持ち駒の中身を数えて損得を確かめる

図は2つ目の対局(動画「プロ棋士が「一手損角換わり」をわかりやすく解説します」)の36手目の配置です。1つ目とは別の対局です。一手損角換わり側が手前になるよう180度回してあり、図の1筋が実戦の9筋にあたります。

相手の棒銀(銀をまっすぐ攻めに出す指し方)と銀を1枚ずつ交換し終えた36手目です。持ち駒を数えると、相手は角1・銀1の2枚、こちらは角1・銀1・歩1の3枚。銀は1枚ずつで五分です。盤と持ち駒を合わせた歩の枚数はおたがい9枚で同じですが、すぐに打てる歩を持っているのはこちらだけです(機械で数えました)。攻めに使う銀と受けに使う銀の交換なら、駒の損得が同じでも受ける側は損をしていません。ただし交換のあとは、おたがいに銀を打ち込める状態になります。黄色の7九の玉のまわりは7八の金・5八の金・7七の銀の3枚で、7八の金が7七の銀を支えています(機械で確かめました)。黄色の2五の歩は反撃の足がかりです。玉を囲いへ入れる手より先に、自分の陣に銀を打ち込まれるマスが無いかを数える番です。

実戦で学ぶ⑤: 金を上げる前に、相手の持ち駒に角が残っているかを数える

図は2つ目の対局(動画「プロ棋士が「一手損角換わり」をわかりやすく解説します」)の38手目の配置です。1つ目とは別の対局です。一手損角換わり側が手前になるよう180度回してあり、図の1筋が実戦の9筋にあたります。

37手目に相手が持ち駒の角を黄色の5四へ打ちました。これで相手の持ち駒は銀1枚だけになり、角の打ち込みが無くなります。それを見てから、こちらは38手目に金を黄色の6七へ上げました。もし相手が角を持ったままなら、赤い印の4九へ打ち込む手がありました。4九から斜めに見ると、あいだの5八が空きマスなので、打った角は6七の金にそのまま当たります(機械で確かめました)。相手が角を持っているあいだは打ち込みの利く場所を空けず、相手が角を手放した瞬間に自陣を整えます。

実戦で学ぶ⑥: 銀を打ち込む前に、その銀が相手の何枚に当たるかを数える

図は2つ目の対局(動画「プロ棋士が「一手損角換わり」をわかりやすく解説します」)の44手目の配置です。1つ目とは別の対局です。一手損角換わり側が手前になるよう180度回してあり、図の1筋が実戦の9筋にあたります。

44手目、5五へ打った銀を黄色の6四まで進めたところです。持ち駒はこちらが角1・銀1・歩2の4枚、相手は銀1枚。次に狙っているのは、赤い印の7三へもう1枚の銀を打つ手です。7三へ打った銀は、黄色の8二の飛車と黄色の7二の角の2枚に同時に当たります(機械で数えて2枚)。相手が8一の桂でその銀を取っても、6四の銀が7三に利いているので取り返せます。銀を打ち込む前に、その銀が相手の何枚に当たるか、取られたときに取り返す駒があるかを数えます。

実戦で学ぶ⑦: 「取るしかない」に見えたら、手を抜いた場合に自分の攻めが何枚に当たるかを数える

図は2つ目の対局(動画「プロ棋士が「一手損角換わり」をわかりやすく解説します」)の46手目の配置です。1つ目とは別の対局です。一手損角換わり側が手前になるよう180度回してあり、図の1筋が実戦の9筋にあたります。

45手目に相手が黄色の8六へ歩を伸ばし、こちらの黄色の8七の歩に当ててきました。ふつうは8七の歩で取り返す一手に見えます。実戦はここで手を抜き、46手目に黄色の7三へ銀を打ちました。この7三の銀は、いま黄色の8二の飛車と黄色の7二の角の2枚に同時に当たっています(機械で数えて2枚)。相手の8一の桂で取られても、6四の銀が7三に利いているので取り返せます。相手が8六の歩をこのまま8七へ進めて成れば、その駒は黄色の7八の金に当たりますが、金を取られても黄色の7九の玉で取り返せます(7九と7八はとなり合っています)。手を抜けるかどうかは、自分の攻めが相手の攻めより1手早いかどうかを数えて決めます。この対局は、このあと一手損角換わり側の勝ちになりました(動画の画面に出た「勝利」の表示による)。

一手損角換わりのよくある質問

一手損角換わりについて、よく出る質問を8つまとめました。手損の理由・普通の角換わりとの違い・弱点・受ける側の指し方の順に答えます。

一手損角換わりとは何ですか?

後手が自分から早く角を交換して、わざと1手損する戦法です。8四の歩を8五へ突かずに残すために、あえて手を損します。

なぜわざわざ1手損するのですか?

8四の歩を残せるからです。歩が8四にあると8五へ桂を跳ねる余地が生まれ、金を4三へ上げる形や玉を2二へ入れる形も選べます。

普通の角換わりとどう違いますか?

普通の角換わりは先手と後手が角に1手ずつ使うので、手の損得はありません。一手損角換わりは後手だけが余分に1手使います。その代わり、飛車先の歩を伸ばしていない形を選べます。

一手損角換わりの弱点は何ですか?

後手番なのに、さらに1手損していることです。相手に速い攻めを選ばれると忙しくなります。覚える定跡の量も多く、上級者向けの戦法です。

受ける先手はどう指せばいいですか?

早繰り銀・棒銀・腰掛け銀・端を突き越しての右玉の4つから選びます。いまは早繰り銀が有力とされています。端の歩を1五まで突き越せるのも、受ける側の得です。

角の交換は何手目にするのがいいですか?

4手目の交換がいちばん多く、駒組みの自由度が高い形です。8手目に交換すると、相手に飛車先の歩を2五まで突かせてから決められます。どちらも先手と後手を合わせた総手数です。

一手損角換わりの囲いは何ですか?

決まった囲いはありません。相手の形を見てから、金矢倉や軽い囲いを選びます。

一手損角換わりはいまも指されていますか?

指されています。プロの公式戦でも採用されています。ただし2000年代に大きく流行したころに比べると、指す人は限られています。

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